京都の異空間ロックバンド・ヘルミッショナルズがお送りする劇空間コラム。

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流さるるる
集中豪雨により川は増水していた。

私の散歩ルートの一つである馬糞五郎橋の下を流れる凡人川の水嵩は橋の上から手が届くのではないだろうか?と思うほど増水しており、流れる濁流の渦を見ていると恐怖で足が竦む思いだった。
梅雨の時期さえあまり雨の降らないこの地方では、こんなことは非常に珍しく、私は好奇の気持ちよりつい、
いつものように散歩しよう、
と思い立ったのであった。

いつものように川縁の道をダラダラと傘をさしながら歩いた。川を流れる水の音がゴウゴウと唸っていて、身の危険を感じたが、逆にそれが刺激になっていつもと違う散歩の快感が伴った。高揚した気持ちで川を見ながら歩いていると、ふと足が止まった。

『人が見えた。一瞬水面に人が見えて、また濁流にのまれた、そんな気がする。一瞬だったが確かにお婆さんが見えた気がする。』

そう思ったのも束の間、気のせいかなと思って、歩きだそうとしたが、後味の悪いような感覚が全身を覆った。

私は動揺した。

どうしたら良いのだ?
助けに行っても、私も一緒に死ぬだけだ。
人を呼ぼうか?
いや、普通の人を呼んでもどーにもならない。消防隊かレスキュー隊のような人達を呼ばないと、この濁流はどうにもならないはずだ。
しかし、先程見たのがマネキンかダッチワイフか何かだった場合、私は人生最大の大恥を掻くことになる。そんなことになったら私は恥ずかしくてこの町に住むことができなくなる。
何故なら、間違えであった場合きっと近所の奥さん連中に

「よっぽど大切なダッチワイフだったのね。」
「あんなものそこまで大切にしているなんて気持ち悪いわね。」
「うん、うん。気持ち悪〜い。私あの人のこと前から気持ち悪いと思ってたのよ。だって変態っぽいんですもの」
「あれは間違えなく変態ね。何か変なことをする前に町から追い出しましょうよ。」
「そうよ、そうよ。賛成」
「バケラッタ。」

などと言われ、家の周りを『女性が安心して住める町づくりを』か何か書かれた幟をもった女性に囲まれ、町を歩けば子供にまで石を投げられ、嘲られ、疎んぜられるに違いないのである。
そうなってしまうと、名誉の挽回は甚だ困難を極めることは明白なのである。

かといって何もなかった顔をして現場を去った場合、翌日の新聞に死亡記事が載っていて、新聞の写真には
『老婆を見捨てて逃げる男』
というタイトルのもとに、私の後ろ姿が写っていたりして、近所の奥さん連中に

「あの人よ、あの人。」
「えっ?あの人が何なの?」
「例のお婆さんを見捨てて逃げた、最低の鬼畜野郎じゃない。」
「あ〜、あの。あんなのがいては安心して暮らせないわね」
「そうよ、そうよ。おばあさんを川に突き落としたのも、きっとアイツに違いないわ」
「絶対そうよ。あんな奴は殺すべきよ。殺人鬼に死をっ!」
「殺人鬼に死をっ!」
「バケラッタ」

と大合唱となり、町を歩けば、包丁を持ったおばはんや、バットをもった少年達に追いかけ回され、挙句の果てには撲殺されるに違いなく、この方法もとれないのである。

では、一体私はどうしたら良いのか?
助けようとすると恥をかき、見捨てても後味が悪く、さらに撲殺される。

きっと、お婆さんらしきものを見てしまったことが私の不幸の始まりなのだ。
私は見てはいけないものを見てしまったのだ。

一体私の何が悪いのだ?
何もしていないのに、こんな不幸な気持ちになるなんて。
人は良心を持つと不幸になるのだ。

こんな荒んだ気持ちのまま、私は猛ダッシュで帰宅し
一人酒を飲んで、狂ったように叫んで寝た。

その晩、我が家は床上浸水し
朝に目覚めた時には、私の布団の横にダッチワイフが転がっていた。
| 三号 | よくある話 | 00:58 | comments(0) | trackbacks(0) |
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