京都の異空間ロックバンド・ヘルミッショナルズがお送りする劇空間コラム。

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緑と私
「今年もそろそろ藻揉みのシーズンだな。いつ出掛ける?」
春が来ていつものように緑から誘われた。緑は私の甥だ。
「じゃあ明後日、場所は湘南だな。」
20年前からいつも決まったセリフだ。なぜなら最近のカップルによくあるデートコースのパターンを私は知らないからだ。

三月二日。絶好の藻日和に恵まれたここ小田原の朝は雷雨だった。
緑は背広だがずぶ濡れだ。私はこれまで生きてきた中で3番目にこもった声で
「もう、ほんま堪忍やでえ〜。」
と慣れない関西弁を使い緑の機嫌を伺った。
が、緑は笑わなかった。しかし私には彼の手首にある2時を指した時計のタトゥーが止まって見えた。昨日より成長している。


「あねさん!あねさん!本組の鉄砲玉に竜二が殺られました。築地の事務所は壊滅的です。ここも時間の問題ですぜ。さあ、早く。下にタクシー用意しておきました。」
「ばかやろう!あんたら亡くなった親分の言葉を忘れたんかい。藪をつついて狸に化けろ。夢は泡なり。ほら、障子の裂目を覗いてみな。もうここを嗅ぎつけられた。せやさかい、出発の支度や。」

姐さんが車に飛び乗ると当時タクシーの運転手だった私は行き先は告げられていたのですぐにギアをトップに入れた。
「あんた荒い運転するんじゃないよ。こんな風体だけどこれでももうすぐ母親になるんだから。」
彼女はドスのきいたハスキーな声を発した。が、語尾の優しげな感じはなぜかノスタルジックだった。私がルームミラー越しに見たのは女の膨れた腹だった。そのお腹の中の赤ちゃんが緑だった事はこの時はまだ知らない。
しばらく海沿いを走った後
「この辺だね。ありがと。本組を撒くなんてあんたも大した腕だよ。
…じゃあね、おにいちゃん。」
えっ?
振り返ると彼女は本組に取り押さえられていた。
もうなんかすっごいブサイクだ。

それから18年後―私は緑と再会し、(再会と言っていいのだろうか)
全てを聞いた。
本組に育てられた事。
アメリカンスクールに通った事。
同級生の伊沢と一緒に喜劇部に入った事。
整形したけどほくろが増えた事。
サイパンで死にかけた事。
相当まいっていた事。
生みの母親の事。
竜二じゃなくて龍二だった事…

藻揉みはそんな緑が唯一心を開き黄緑になれる行楽かも知れない。
「俺は何色にも染まらない。」
私は緑のそんなギャグを聞きたい、ただそれだけかも知れない。
不純な動機でもこれでいいとさえ思っている。
緑と私。いつまでも甥と叔父。
いつまでもそんな関係でいれたらと思います。             
              
                 END


| 1号 | 恋愛 | 00:19 | comments(0) | trackbacks(0) |
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